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指物師の道具箱7_砥石

2011.10.15

本山合せ砥の仕立て直し(1)_布着せ

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toisi01.jpg父は東京美術学校時代の彫刻の恩師、関野聖雲からこの砥石を譲り受け、関野先生はその恩師高村光雲から譲り受けたものではないかと昨年芸大彫刻課の藤曲隆哉先生がみえたおりに楽しく想像したのですが、高村光雲は光太郎から愛用の道具類を譲り受けているので、僕の預かるこの砥石は歴史を刻み込んだ由緒深い本山合せ砥で、欠けのないピン角の銘品です。

天然砥石は地層から水が入り傷むので、砥面以外に粗相のないよう麻布を着せ、その上から漆で養生するのが古来からのお作法で、小生が使い始めてから40年、父が使い始めたときには独特の形をした檜の台にすでに嵌め込まれていたので今回が恐らく80年以上を経た末の手入れとなるだろうと思われるのは、その台の形から愛用している人間が特定できることと、この砥石が(おそらく)浅草にある、といしや、で売られていた当時、すでに布着せがしてあっただろうと思われる正真正銘のあかしとなる丸い覗き穴が麻布に開けられてあるからなのですが、関野聖雲に関する研究と先生の使われてきた鑿、小刀、彫刻刀の資料をまとめている藤曲先生が工房のホームページの道具の写真をみてそうではないかと想像した末の工房来訪でしたので、砥石に限らず鉋、鋸、小刀などなど、作者の技量や道具への愛着と、それらが生み出すものとの関係をあらためて実感することになりました

 漆と麻布が砥石からはがれはじめたのは昨夏ごろで、心配な冬を迎え、この砥石もいずれは息子が使うことになるので、木部は自前、砥石養生は塩尻で漆の仕事をされている酒井邦芳さんにお願いし、僕の誕生日から3月までの間、手間暇惜しまずの仕事となりました
 今年は息子との親子展の計画があり、現代は簡単に済ますことが出来る素材と技法があり、僕は展覧会に向けて膨大なスケッチをかかえているのですが、やはりぼくたちは自分の仕事に誇りを伴わない安易な技法と未来の地球に悪いかもしれない合成素材を使いたくないものなのです

 


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「小端小口の漆布着せ」

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布着せ(麻布を漆で接着後、漆を塗り重ねて仕上げる伝統技法)が完了した本山

使う麻布は古い蚊帳を使います

漆の色は自由で、麻布の布目をみせる方もいますが、漆黒艶消しの布着せにしました
 漆は本来茶色ですが、この黒漆は陽にあてて水分をぬいたくろめ漆に鉄粉と松煙を混ぜてつくります
漆の中に含まれるタンニンと鉄が黒く反応した黒漆は、工房の鉄と絹との反応を利用する鉄の綿色着色と同じ自然の原理、この漆に混ぜる松煙は松を燃やして出来るカーボンのことで一千年以上退色しない歴史があります
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「木曽檜材台部の彫込み」

砥面の大きさは長さ七寸五分、巾二寸五分が伝統で寸八と寸六と呼ぶ鉋刃を研ぐのに適します
 厚みは現在55ミリ、入手時はおそらく二寸強と思われますが、よい砥石ほど瞬時に刃を合わせるので100年を越えてすり減った厚みは僅か5、6ミリです


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「さびうるし」

水がしみ込み傷みやすい台部木口をさびうるしをしみ込ませて養生します
写真は三月で退房した早川さんに手番をしてもらった時のスナップです


砥部などの地名に残る日本各地で古代から採掘されてきた砥石の中で、本山(ほんやま)は平安時代頃からもっとも品質がよいとされてきた京都梅ヶ畑産出の意、荒砥、中砥、仕上砥と区別される砥石のなかでも、このように美しく鋼と石が擦れたときに発する匂いに格調があり、刃物に吸い付いて仕上がりの素早い砥 石を使う研ぎを我々は合わせると呼ぶのでとくに合せ砥と呼ぶのですが、金属と石と工人の心が一致するところが起源かと思います

研ぐという行為は想像に満ちて楽しく、美しい砥石はこれからの仕事の良否に関わることなのですが、僕の場合過酷な制作の現場では堅牢を第一に計画します
 自然に還るさびうるしは生うるしと砥の粉を練ったもので乾燥すると石のように堅牢、常時水を使う研ぎですが、殺菌力を持つ漆と木曽檜との組み合わせで今後少なくとも100年は腐らないとの心づもりになりました



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「研ぎ場にて」
九月頃からようやく手に馴染む

この砥石が掘り出された経緯、巡った先輩に恥じない仕事と気持が新たになります


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