

「入山辺近景」
2007、2008年
古民家、石垣など里山風景が残る入山辺南方にある公民館活動仲間Kさんの敷地で、大町から嫁がれた当時から立っていた桐の木が倒されたのは2005年、2007年に箪笥の制作依頼をいただいたのは、若い頃から集めた着物を整理して、その桐を生かして作った箪笥に帯を仕舞っておきたいというご希望からでした(帯のたとうは既製間口三尺の桐箪笥では余分があり、着物収納用箪笥三尺五寸間口の必要は、モジュールを畳寸法にした在来工法で柱間のおさまりを優先してきた伝統の矛盾です)
通常伐採した樹は丸太での自然乾燥と製材後の自然乾燥を数年から数十年、近年ではさらに住環境に合わせた人工乾燥をほどこして僕達に加工の番が回ってきますが、分けても桐の樹は表皮がアクで真っ黒になるまで丸太のまま放置し、製材後は立てた状態で梅雨の雨にさらしてさらにアクを抜くという独特の工程を経て、はじめて桐の木独特の軽やかで真っ白な清潔感のある日本の樹らしい優しい味わいになります。(この工程が不完全だと数年後にじわじわとアクがでてきて箪笥が黒ずんでしまいます)
日本には女の子が誕生すると桐の樹を植え、嫁ぐ時にその桐で箪笥を作った習わしがありましたが、祖の代から80,90年以上は経っていたと思われる自然に芽生えた樹から2008年早春に挽きだした桐板は、高地で老成した目のつんだ味わいが印象的で、寒い製材所で震えながら感動したことを思い出します

大きな箪笥に和服類がしまわれている代々の古い民家にお邪魔してMさんのお話を伺いながら、都会にいらっしゃる娘さんのお住まいに入る大きさとデザイン、帯収納に特化せず汎用性のある現代的な和箪笥といったイメージスケッチが浮かびました(帯締め、帯留め、かんざしなどの和装小物をディスプレイするはね上げ戸部分は、その後箪笥上に何かを飾る可能性から、ひきだし構造に設計を変更しました)

着物を湿気から守るための密閉を特徴とする伝統的な桐箪笥の構造ではなく、軽く引き出せる吊り抽出にしたのは現代住宅の内部が空調されていることからで、筐体と抽出の間のスリットが本体デザインの特徴となりました。引き出しの高さは下にいくに従い少しずつ変化させると風情が落ち着き、番号をふることなく入れ間違いがない伝統作法、デザイン上重要な要素である引き手金物は、マンションなど現代空間にもマッチすることを念頭に息子がデザインしたものです

2008年の梅雨、工房の庭で雨にさらしたあと、さらに灰でアクを抜き本体と引出を制作、鏡と呼んでいる前面は信州で育った黄檗を使うことにしました。漢方薬に使われてきているこの樹は数年するとやけて・(古びてきて)雅趣のある味わいになることで知られています

引き手金物は、錆び_古美が将来の味わいとなることを想定しています
3ミリ厚の真鍮を各部材に切り出し、面取り後に銀蝋で組むことによって交差部に生じる小さな溝を造形上のアクセントにし、Vカット部分を曲げ、隙間に銀蝋を流して補強した後鍛造で成形します。特殊な槌面の地アラシ(ハンマートーン)は手叩きのランダムなテクスチャーを特徴としています


「12個の引き手金物の制作」
二つほど見本を作って見せてやってごらんと練習させます。いくつかおしゃかにしますが頑張ってどうやら作り上げた浜君。この後の叩き仕上げは人生経験がまだまだ足りないと、若輩には任せられません・汗

鉋修行中の川上さんに裏仕事(表面に表れない加工)を手伝わせています
「指物の基本は寸分違わぬ真四角・人の基本はやわらかく丸く・笑」
引出の開け閉めぐわいはこれらの仕事にかかっていて人生鍛錬です
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昔は嫁入り道具だったことから、本体と鍵に祝い熨斗を飾りました
美しい伝統を引き継ぎ、今回は寒椿の絵の布に由緒書きを添えて嫁入り支度中です


お納戸(クロゼット)で三代の歴史が仲良くならびました
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樹の生きた年月とKさんの過ごした年月。それに劣らぬよう心をこめて時間をかけ生まれ出た帯箪笥ですが、将来は娘さんが家族の思い出と共に使ってくださることをうれしく念じながら、新年間近・クリスマスの納入になりました。大切に使いたいとおっしゃる賀状をいただき、僕にとっても2009年最後の心に残る制作となっています
